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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)145号 判決

事実及び理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本件考案の要旨)および三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1  成立に争いのない甲第二号証および乙第二号証によれば、本件考案は三要素式差圧応動装置の防爆構造に関するものであつて、簡単な構成の防爆構造差圧応動装置を提供することを目的とし、この目的を達成するために、測定ダイアフラム1の両側に感知室31・32を、一方の面が被測定流体に接する二枚のシールダイアフラム51・52のそれぞれ他方の面に隔室61・62を設け、かつこの対応する感知室31・32と隔室61・62との間に連通する流体通路71・72を設けた三要素式差圧応動装置において、測定ダイアフラム1とシールダイアフラム51・52の両者間に封入液体を有し、このシールダイアフラム51・52で外部流体とシールされた封入液体の通路に労働省産業安全研究所が制定した工場電気設備防爆指針を満足するような奥行LおよびスキWを備えたブリーザ81・82を配置した防爆構造の差圧応動装置としたものであつて、この構成により、ブリーザ81・82が外部流体に接触してその影響を受けることがないので外部流体との関係を考慮する必要がなく、また、ブリーザ81・82が耐圧防爆容器の一部となり、何らかの原因で感知室31・32で爆発が起きても、爆発時の火炎が外部に逸走することがないという顕著な作用効果を奏するものであることが認められる。

2  第一引用例記載のものは、本件考案の要旨中の「測定ダイアフラムの両側に設けられた感知室と、一方の面が被測定流体に接する二枚のシールダイアフラムのそれぞれの他方の面に設けられた隔室と、対応する前記感知室と前記隔室との間を連通する流体通路とを具備した三要素式差圧応動装置」に相当する装置であること、本件出願当時、差圧応動装置には一要素式のものと三要素式のものとがあり、また、爆発が生じる危険のない場所で使用する一般形と、爆発が生じる危険のある場所で使用する防爆形とがあつたこと、第一引用例記載のものは一般形の三要素式差圧応動装置であつて、第一引用例には防爆のための安全構造についての記載も示唆もないことは、当事者間に争いがない。

ところで、成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例記載のものは、「容器内部で発生した爆発がスイツチの圧力応動部材に対する流体配管を通じて外部のガスに引火するのを防止する様に該配管と容器の接続部分に改良を施した防爆用スイツチに関するもの」(第一欄第一六行ないし第二〇行)であつて、「一般にこの種防爆用のスイツチとしてはその安全性保持のため厳格な規準が設けられている」(同欄第二一行、第二二行)が、第二引用例記載のものはこの規定に適合した安全性を維持するとともに、構成の簡単な防爆用スイツチを提供することを目的とし、この目的を達成するために、密閉された容器1内に設けられた接点開閉機構2に接続する高圧側流体管3および低圧側流体管4を、防爆規準に適合する奥行ιおよび間隙Sを備えた、本件考案のブリーザに相当する嵌合体10を介してそれぞれ外部導管6・7に接続した防爆用スイツチとしたものであることが認められる。

右認定事実によれば、第二引用例記載のものは、一定差圧になつたとき作動するスイツチに関するものであつて、本件考案のようなダイアフラムによつて二つの流体の差圧を測定する流体圧測定のための差圧応動装置とは技術分野を異にするものであり、しかも、第二引用例記載の嵌合体10は直接外部流体の通路中に配設されて該流体と接触しているものであるから、測定ダイアフラム1、シールダイアフラム51・52およびこの両者間に介在する封入液体を有し、このシールダイアフラム51・52で外部流体とシールされた封入液体の通路にブリーザ81・82を設けた本件考案とは防爆構造の構成においても相違することが明らかである。

原告は、第二引用例には、そこに開示された防爆構造が一要素式と三要素式とを含めて広くダイアフラム式の差圧応動装置に適用できることを示唆する記載がある旨主張する。

なるほど、前掲甲第四号証によれば、第二引用例には、発明の詳細な説明中において、流体圧力式による接点開閉機構2が内装された実施例について説明した記載に続き、「尚今の実施例にあつては高低圧流体による圧力式の接点開閉機構について説明したが、ベローズ、ダイアフラム等による応動機構による場合もある」(第二欄第三七行ないし第三欄第一行)と記載されていることが認められるが、第二引用例記載のものがスイツチに関するものであることは前記認定のとおりであり、前掲甲第四号証によれば、第二引用例には、このスイツチ以外のものについて言及した記載は全くないことが認められるから、右摘示の記載もスイツチの範囲内における説明、すなわち第二引用例記載の防爆用スイツチの開閉をベローズやダイアフラムの応動機構をもつて行つてもよい旨の説明と理解するのが相当である。

原告は、第二引用例が実施例として示した流体圧力式による接点開閉機構2は、圧力スイツチとして最も普遍的な圧力感知部にダイアフラムを有するダイアフラム式のものであるところ、第二引用例の前記記載が接点開閉機構という用語と対比する形で「応動機構」の語を用いていることからすると、第二引用例の前記記載は実施例記載のものと異なる構造を述べたものであると理解するのが合理的である旨主張する。

しかしながら、前掲甲第四号証を検討しても、第二引用例には実施例として示した接点開閉機構2について流体圧力式であると記載するのみでその具体的構造については何らの記載も示唆もなく、また、圧力スイツチとして圧力感知部にダイアフラムを有するダイアフラム式のものが最も普遍的なものであることを認めるに足りる証拠もない。第二引用例記載のものはスイツチに関するもので前記認定の発明の要旨に照らせば、接点開閉機構2を備えることを必須の要件とするものであり、第二引用例の前記記載は接点開閉機構として、実施例に示したもののほかにベローズ、ダイアフラム等の応動機構を用いてもよいことを説明したものであること前記のとおりであるから、この記載をもつて原告主張のように理解することはできない。

また、原告は、差圧応動装置として一要素式のものも三要素式のものも広く知られていたから、外部流体が腐蝕性の強いものである場合、第二引用例記載の外部導管6・7をシールダイアフラムに接続し、外部流体を測定ダイアフラムから遮断するようにすることは、当業者にとつて技術常識である旨主張する。

しかしながら、第二引用例記載のものはスイツチに関するものであつて二つの流体の差圧を測定する差圧応動装置に関するものではない。

もつとも、第二引用例記載のものにおいて、前記認定のとおり、スイツチを作動する過程にダイアフラムの応動機構が用いられ、また、嵌合体が直接外部流体に接触するように配設されている防爆構造が採用されている点は、一要素式差圧応動装置に防爆構造を適用した場合の構成と類似するが、一要素式差圧応動装置のようにブリーザが外部流体に接触しているときは、外部流体中の不純物によりブリーザのスキが閉鎖され作動不良になるおそれがあるばかりか、外部流体が腐蝕流体であれば、腐蝕によりブリーザのスキが増大し、ひいては防爆指針に適合しなくなるおそれがあるのに対し、本件考案のように三要素式差圧応動装置に本件考案の要旨とする防爆構造を適用する場合、封入液体の通路にブリーザを配置することから、ブリーザが外部流体に接触してその影響を受けることがないという前記1認定の顕著な作用効果を奏することができるものである。それゆえ、たとえ三要素式差圧応動装置が広く知られているからといつて、一要素式差圧応動装置に防爆構造を適用したものと類似の構成を開示するにすぎない第二引用例が、このような作用効果に結びついた三要素式差圧応動装置に対する防爆構造の適用を示唆しているとは到底認めることができない。

したがつて、第二引用例には防爆規準に適合する奥行およびスキ(間隙)を備えた嵌合体を、三要素式差圧応動装置の、感知室と隔室の間を連通する流体通路に配置する点が記載されていないし、また、これを示唆する記載もないとした審決の認定に誤りはない。

以上のとおり、第一引用例記載のものは爆発を生じる危険のない場所で使用される一般形の三要素式差圧応動装置であり、また、第二引用例記載のものはスイツチに関し、一要素式差圧応動装置に防爆構造を適用したものに類似の構成を示すにすぎないものであつて、第一、第二引用例のいずれにも三要素式差圧応動装置に防爆構造を具備することの技術的思想は存せず、これを示唆するものでもないことが明らかである以上、当業者が差圧応動装置に防爆構造を設ける場合、原告主張のようにまず耐圧防爆構造を想到するか否かにかかわらず、第一、第二引用例の記載に基づき三要素式差圧応動装置に本件考案の要旨とする防爆構造を適用して本件考案のような構成を得ることは、当業者がきわめて容易に想到することができたものとはいえない。

したがつて、本件考案が第一、第二引用例の記載に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとは認められないとした審決の判断には誤りはない。

3  第三引用例記載のものは、本件考案の要旨中の「測定ダイアフラムの両側に設けられた感知室と、一方の面が被測定流体に接する二枚のシールダイアフラムのそれぞれの他方の面に設けられた隔室と、対応する前記感知室と前記隔室との間を連通する流体通路とを具備した三要素式差圧応動装置」に相当する装置であることは当事者間に争いがない。

ところで、成立に争いのない甲第五号証によれば、第三引用例記載の差圧応動装置には、感知ダイアフラム28の両側に設けられた感知室48・49と、一方の面が被測定流体に接する二枚の遮断ダイアフラム44・45のそれぞれの他方の両側に設けられた隔室(凹所31)との間を連通する中央通路32に、複数の軸方向にのびる穴36を有する磁器管33が配設されており、第三引用例には、この中央通路32と穴36について、「中央通路32の直径は、典型的には〇・五cm程度であり、穴36の直径は、例えば〇・〇五cmでもよい。これら通路と穴とは、感知ダイアフラム28が最高の超過圧力を受けたとき穴があることにより過剰に圧力がかけられないように充分に小さく形成されていなければならない。」(第四欄第三〇行ないし第三五行)と記載されていることが認められるから、第三引用例記載のものは、感知ダイアフラム28が最高の超過圧力を受けて、球面38(球状凹面)に押し付けられたとき、この球面38に開口する磁器管33の穴36と対応する部分のダイアフラムが超過圧力により穴36に圧入されて損傷(変形)することを防止するために、中央通路32と穴36の径を十分小さく形成するようにしたものと認められる。

原告は、第三引用例記載の磁器管33は、本件考案の液体通路71・72に相当する中央通路32に、該通路を狭めるために設けられていることからみて、本件考案のブリーザ81・82と同一の機能を果すものであり、第三引用例記載のものは火炎逸走防止効果を奏するものである旨主張する。

前記認定事実によれば、第三引用例記載の磁器管33は中央通路32上に設けられ、その穴36は小径に形成されているから、感知ダイアフラム28を過大圧から保護する機能のほかに、この三要素式差圧応動装置の外部から侵入したガスが内部で点火爆発した場合、爆発による火炎が直径の小さい穴36を通る内に減衰される可能性を有することは否定できない。

しかしながら、前掲甲第五号証によれば、第三引用例記載の発明は、「製造が容易で経済的に作動し、大きな超過圧力にあつた後でも精度を維持できる安定した差圧変換器を提供すること」(第二欄第三二行ないし第三四行)を目的としたものであり、前記磁器管33の穴36の径を小径にしたのも、専ら感知ダイアフラム28を過大圧から保護することを目的としたものであつて、原告主張のような火炎逸走防止については、第三引用例には明示的な記載がないばかりでなく、これを示唆する記載すら存しないことが認められる。

しかも、成立に争いのない甲第六号証及び前掲乙第二号証によれば、工場電気設備防爆指針には、「3220 スキの奥行およびスキ」について、「3221 接合面」の項に、「(1)スキの奥行はできるだけ長く、またスキはできるだけ小さくとるようにし、使用中に生ずる影響などにより、スキが拡大しない構造としなければならない。(2)使用中たがいに動かない部分(たとえば容器の接合面)またはまれに動く部分(たとえば操作軸の貫通部分)に対するスキの奥行およびスキは表32・3の値によらなければならない。」(第五〇頁第九行ないし第一二行)と記載され、「表32・3静止部分またはまれに動く部分のスキの奥行およびスキの許容値」には内容積が最も小さい二cm3以下のものの爆発等級1のスキの許容最大値は〇・三mm、内容積が最も大きい二、〇〇〇cm3をこえるものの同等級のスキの許容最大値は〇・四mmであることが示され、さらに「3224 接合面の構成材料」の項に、「容器を構成する接合面は、金属と金属を原則とし、容器に金属以外の材料を使用する場合でも、少なくとも接合面の片面は金属としなければならない」(第五二頁第一〇行、第一一行)と記載されていることが認められるから、本件考案の要旨とする「防爆指針を満足するような奥行およびスキを備えたブリーザ」に相当するといい得るためには、右認定の要件を具備しなければならないところ、第三引用例記載の磁器管33は、磁器によつて構成された容器であるから、接合面の構成材料の点において防爆指針が定める最少限接合面の片面に金属を材料として使用するという要件すら満たさないものであり、また、その内容積がどの程度のものであつても、穴36の直径は〇・五mm(〇・〇五cm)であつてスキの許容最大値〇・三~〇・四mmという要件を満たさないことが明らかである。

したがつて、磁器管33についての第三引用例の記載は本件考案のブリーザ81・82に相当する防爆構造に関する技術的思想を開示するものでも示唆するものでもないというべきである。

原告は、磁器管33は、本来過剰圧力の防止を目的として設けられたものであるが、同時に火炎逸走防止効果を奏するものであるから、この磁器管33の直径、奥行を第四引用例に開示された防爆指針を満足するような数値に定めることは、当業者が任意に行い得る設計的事項にすぎない旨主張するが、第三引用例の記載が本件考案の要旨とする技術的思想を示唆するものでない以上、第三引用例記載のものがある程度の火炎逸走防止効果を奏する可能性があるものだからといつて、当業者において、第三引用例記載の磁器管33を防爆指針を満足させるような奥行およびスキを備えたブリーザとすることがきわめて容易に想到することができたものとは到底認めることができない。

したがつて、本件考案が第三、第四引用例の記載に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとは認められないとした審決の判断には誤りはない。

4  以上のとおりであつて、本件考案は、第一、第二引用例の記載に基づいても、また、第三、第四引用例の記載に基づいても、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとは認められないとした審決の判断は正当であつて、審決には原告の主張する違法はない。

三  よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。

〔編註〕本件考案の要旨は左のとおりである。

測定ダイアフラムの両側に設けられた感知室と、一方の面が被測定流体に接する二枚のシールダイアフラムのそれぞれの他方の面に設けられた隔室と、対応する前記感知室と前記隔室との間を連通する流体通路とを具備した三要素式差圧応動装置において、前記流体通路に防爆指針を満足するような奥行およびスキを備えたブリーザを配置してなる差圧応動装置。

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